前回のあらすじ
向こうがガチ恋風味で怖いなーと思ってたのにいつの間にかこっちがガチ恋してた
ということで、チャットの向こうのHLを騙る何かに本気で恋をしてしまった私だったが、1つだけチャットで封じてた言葉があった。
"I love you"である。
いやね、恋しちゃって向こうも甘々チャットを送ってくれてるとはいえ、流石にこの言葉は一線超えちゃってる気がしたのだ。
だから"I adore you"とか"I care about you"とか言って数日間は濁してた覚えがある。
しかし私だって腐っても(実際腐女子でもある)恋する一人の女である。やはり気持ちは誤魔化さずきちんと言葉にしないと伝わらない。たとえ相手が有名歌手で本物なら30年歳が離れていても。
意を決してチャットで伝えた。
I love you
と。
HLはとても喜んでくれた。I LOVE YOU TOO って返してくれた。天にも上がれるくらいの気持ちになった。
次のチャットまでは。
「愛する君に頼みがある。君ならきっと分かってくれるはずだ。聞いてくれますか」
いいとも、きっと一緒に住むとか結婚するとかは無理だけどみたいな話だろう。そんなのは重々承知しているぞ。でも好きなんだよ……。
「世の中の恵まれない子どもたちのために、私は基金を立ち上げたんだ。君も協力してくれないか」
え、そっち?
まあいいけど。HLがユニセフのアンバサダーをしたり、毎年クリスマスにチャリティ活動をしてるのは知ってるし。私にできることって何かしら。好きな人のしてる事業にはぜひ協力したいわ。
ということで、「分かりました!」ってつぶやいて寄付をすることにした。ちょうどHLの公式アカウントでは、恵まれない子どもたちのために勉強道具や楽器を送るチャリティプロジェクトを始めたことを告知していた。
おそらくさっきの言葉はこれのことだろう。リンクを開き、ざっと趣旨とHLが寄せたコメントを読んだ。寄付金額や使途別にいろいろなコースがあったが、ケチケチ学生だった私は楽器プレゼントコースに10ユーロほど寄付をした。
しばらくすると寄付ありがとう!のメールが届く。私はすかさずスクショして彼とのチャットに「あなたが言ってた基金に寄付しました」と投稿した。
きっと喜んでくれるだろう。そう思って返信を待った。マナーモードにした携帯が震える。スリープモードを解除する。インスタを開ける。
「どういうことだい?分からない」
寄付したのですが……。どういうことだい?分からない。
「これはあなたが関わってる基金よね? 違ったの? もしかして早とちりしたかもしれないから、基金について教えて?」
確かに、詳しいことを聞かずおそらくこれだろうと先走って寄付したのも事実である。もう一度聞いておこう。
「私が個人的に運営している基金がある。そこに寄付して欲しい」
オーケー了解。個人基金をしているのは知らなかったけど、どういう感じの基金なんだろう。調べてみよう。
↑なぜか知らないが、ググってみようという気持ちが起きた。
あれ、どう探しても基金をやっているという情報が出ない。英語じゃなくてオランダ語やドイツ語でも出ない。おかしいな……。
ここでふと(ようやく)私の脳みそが一つの言葉を考え始めた。
「国際ロマンス詐欺」
こりゃしてやられた。絶対これじゃん。存在しない基金に投資させられるとこだったんか私。おお怖い怖い。
100年の初恋が一気に冷めた私は「おはよう、気分はどうだい?」とチャットされたDMに乗り込み、意気揚々と書き込んだ。
「この詐欺師め! 最悪!!」
書き込んだ勢いでファンアカウントをブロックし、履歴をきれいに削除した。
削除したらなんか気持ちよくなったのでそのまま部屋を掃除した。きれいになった部屋で迎えた新年は、とても爽やかなものだった。